西陣工房の糸繰り作業場 134錘の糸繰り機が所狭しと並ぶ

西陣工房は「伝福連携(でんぷくれんけい)」の理念の下、障害者である利用者が伝統産業の中で中枢的な役割を担える職人として、職員の助けを借りながら施設で活躍することを目指してきました。職人に必要な能力は何と言っても技術力です。かつて日本では、丁稚奉公という住み込みのシステムで時間をかけてじっくりと職人を養成し、伝統的な技術の継承を行って来ました。

誰でも最初は素人です。その奉公人は直接仕事と関わりの無い礼儀作法を初めとした様々なことを含めて親方や先輩からたたき込まれることにより職人の技術や人格に一層の磨きをかけて一人前に育ってゆきます。これは、サラリーマンとして希薄な人間関係の下で最低賃金をもらいながら練習を繰り返すこととは、人間関係の濃厚さや仕事の幅広さ、惜しみない時間の掛け方という点で随分違うものです。

就労継続支援B型事業所という制度は、現代の丁稚奉公のような制度であり、一見、すぐに最低賃金がもらえる一般就労(企業就労)や就労継続支援A型事業所の方が好ましいと思われますが、長い時間軸で真の実力を身に付けるシステムとして考えた場合、就労継続支援B型事業所の方が優れたシステムだと言えます。

 

糸繰りをする利用者たち

特に知的障害者が新しい能力を身に付けるためには、常に指導や修正が必要であり、長い時間を掛けた取り組みが必要です。従って、最低賃金が支払われるがために即戦力が求められ、訓練に十分な時間が取れない一般就労などのシステムではなく、職員と向きう十分な時間が取れ、また、ある程度の実力が付いても常に職員のリードとバックアップがある就労継続支援B型事業所でこそ大成の可能性が見い出せるのです。

このように、就労継続支援B型事業所は成長の場です。職員が利用者ととことん向き合って技術習得に取り組む訳ですが、それ以前に、事業所で取り組むべき価値ある仕事とそれを可能にする技術を施設で確立していなければなりません。残念ながら多くの就労継続支援B型事業所では世の中から評価されるような仕事を職員と障害者が一緒に行うプランを持ち得ず、簡単な内職に落ち着く傾向にありますが、これでは宝の持ち腐れです。知的障害者の多くは事務や営業は苦手ですが、ゲームの様に物を目で追い反射的に手を動かす能力の高い人は多くいます。それゆえ、一般的なサラリーマンの仕事よりも職人の手仕事が向いているのです。知的障害者が伝統産業などの手仕事に従事して、さらに職員のバックアップにより、障害者と職員との総体としての施設の技術力や生産力が業界で通用する実力を持つことで業界の事業所からたくさんの仕事を請負い、就労継続支援B型事業所がその業界内の1事業所(工場)としての実力と存在感を持ち、その結果、優秀な利用者には最低賃金を凌駕する工賃を支払えることも決して不可能ではない。その実現を目指すべきなのです。

 

ジャガードを搭載した手織り機(広幅)

ジャガード搭載の手織り機(帯幅)

西陣工房で織った浮世絵

西陣工房は、開所以来15年、伝産法 に基づく伝統的工芸品である西陣織と京 組紐に取り組んできました。西陣織は先 染めの紋織物で、いろんな色に染色した 糸を使って柄を織り込む絹織物です。細 かな数多くの工程があり、古来からそれ ぞれの専門業者による分業体制で生産さ れて来ました。西陣工房はその内の糸繰 り、整経、機織り、紋意匠の工程を行う 事業所として年々その存在感を増して来 ました。特に糸繰りでは、ここ数年従事 者の高齢化が進んで廃業される事業者が 多く、そうした仕事を取り込んで仕事を 増やしてシェアを高め、今では糸繰り機 134錘を擁する西陣最大規模の糸繰り 工場になっています。

 

簡易な手織り機の「さをり」


さをり織りのショール


また、機織りでは 西陣織の標準タイプと言えるジャガード を使った製織(手織り)に取り組んでき ました。手織り機は幅75センチの金襴用の広幅、幅35センチの帯用の 帯幅、幅50センチの紗(捩り織 り)用のジャガードを搭載した3 台の手織り機で職員が用意した経 糸や紋情報を駆使して10色程度 の緯糸を使った色鮮やかな浮世絵 などを織り上げており、他の障害 者施設の追随を許さない西陣織標 準品質と自負するところです。ま た、全国の障害者施設で織物と言 えば「さをり織」ですが、西陣工房 でも織物の初心者である利用者が太 めの毛糸等を使ってショールなどを 織っています。京都府では毎年敬老 の日に100才を迎えたお年寄りへ 知事から純毛ショールが贈られてい ますが、それは府下の障害者施設で 分担して製作している「さをり織」 です。西陣工房では毎年200枚以 上の割り当てをこなしています。

 

組紐体験教室で修学旅行生に利用者が教えます


丸台を使って平紐を組む


一方、京組紐では作る紐の種類やグレードに応じて高台、丸台、角台を使い分けて、絹製の丸い紐や平たい紐等を手組みで作っています。組紐は古代から様々な道具や組み方が考案されて伝えられてきました。初心者でも使いやすい角台は、西陣工房が観光客向けに開催する組紐体験教室の体験用に使っていま
組紐体験教室で修学旅行生に利用者が教えます
す。お客さんは京都に修学旅行に来る中学生が多く、西陣工房の利用者が最もオーソドックスな八つ組み(丸紐)を丁寧に教えて自らが組んだシルク製手組みの紐をストラップにして修学旅行の思い出として持ち帰っていただいています。

 

50本以上の糸の束を合わせて組める高台


高台で組んだ平紐


また、民丸台を使って平紐を組む生委員などの研修会としても利用していただいております。丸台では角台より多い16本、20本の糸の束を組み合わせて平たい紐を作ります。高台では50本以上の糸の束を組み合わせて重厚な平紐を作ると共に、色違いの糸を使って柄を作ることもできます。

こうした手仕事は、昭和のバブル期以前には日本で普通に行われていましたが、その後、機械化されたり人件費の安い韓国や中国で手組み紐を生産するようになることで国内の職人が激減し、今では西陣工房が手組み紐ができる貴重な場となっています。デフレが長期に続く現在の日本では周辺諸国との賃金高台で組んだ平紐 格差が縮まり、国内回帰の機運も高まりつつあります。しかし肝心の職人が40年近いブランクによりもはや壊滅的になっており、今後、西陣工房がその技術力を飛躍的に向上させることでその役割を担えることを目指して頑張っています。